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新潟地方裁判所 昭和30年(タ)11号 判決 1956年10月26日

主文

本訴原告の請求を棄却する。

反訴原告と反訴被告とを離婚する。

反訴被告は、反訴原告に対し、金四万円及びこれに対する昭和三十年八月十四日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

反訴原告のその余の請求を棄却する。

本訴原告(反訴被告)と本訴被告(反訴原告)間の子はなの親権者を本訴原告(反訴被告)と定める。

訴訟費用は本訴、反訴を通じてこれを四分し、その三を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は第三項に限り、反訴原告において金一万の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

(省略)

理由

成立に争のない甲第一、二号証、証人神田聞一、同安倍衛の各証言、原告山下哲二及び被告山下和子(各第一回)の各本人訊問の結果を綜合すれば、原告と被告とは昭和二十八年三月二十六日結婚式を挙げて、事実上婚姻生活に入り、同年五月頃妊娠したこと、同年十月頃被告は「離婚したい。子供は堕胎する。」旨の置手紙をして実家に帰つたが、間もなく原告の許に戻つたこと、被告は昭和二十九年一月頃実家に帰り、同年二月四日はなを分娩し、同月末頃原告の許に戻つたこと、子供の出生届は同月十九日婚姻届と同時になされたこと、その後同年八月頃被告は実家に帰り、被告の兄安倍衛より媒酌人を通じ原告に対し離婚を申入れ、原告の意を受けた媒酌人の「原告の許に戻るように」との勧めにも応じなかつたこと。結局同年九月二十日頃離婚することのに話がきまり、原告が離婚届を作成し、これを被告に渡し、これに調印したものと子供はなを渡して貰い、それと引換えに被告の荷物等を引渡すことを約し、同年十月十三日原告は子供を受取ると同時に、被告に対しその嫁入道具等の荷物を引渡したが、被告は遂に離婚届に応じなかつたこと、爾来原告が子供はなを養育していることが認められ、更に、原告が昭和三十一年一月二十日後妻として他の女を迎え入れていることは弁論の全趣旨によりこれを認めることが出来る。而して、右の如く被告が置手紙をして実家に帰つたり、また、その後実家に帰つたきり原告の勧めにも拘らず、原告の許に帰らなくなつてしまつた理由につき、原告本人は「被告は原告に対し真の愛情を持たず、唯々働かずに楽な生活を期待して嫁に来たところ、その期待に反したので原告を嫌うに至つたものである」旨を述べているけれども、(第一回供述)該供述は直ちに措信し得ず、むしろ証人神田聞一、同安倍衛の各証言及び被告山下和子本人訊問の結果(第一回及び第二回)を綜合すれば、原告方にはその母の外に、その先妻との間の子供があり、また、原告の妹チヨが同居していて被告にとつては多少とも複雑な家庭であつたが、原告の被告に対する態度は、例えば、原告は結婚当初から夜遊びに耽り、また、家業についてもこれに不馴れな被告に対し親切に指導するということもなく、更に、婚姻届についても被告からの度々の催促に対しても心よく応ずることなく子供が出生した後被告の兄安倍衛からの懇請があつて始めて届をしたような有様であつて、被告が嫁として置かれている右の如き複雑な家庭内の立場とか、家業えの不馴れ等をよく理解し、被告を一生の妻としてこれを愛し導びくという真の愛情の欠けるところがあつたことを否定し得ず、従つて、前記の置手紙をして実家に帰つたのも当時妊娠していたという特別の心理状態にあつたことにも因ると推測されるが結局被告としては原告の真情を疑うに至り将来に望を託しないと考えて離別を決意し、子供は堕胎するとのことで帰つたものと認められ、更にその後実家に帰つて原告の勧めにも拘らず原告の許に戻らなかつたのも、原告の右の如き態度につき全然原告に反省の気配も見られず、唯原告の許に戻れという一方的な態度であつたので、被告としては原告との将来の共同生活を断念せざるを得なかつたためと認めざるを得ず、該認定を覆えすに足る証拠もない。従つて右の事実を捉らえて被告が原告を悪意で遺棄したとの原告の主張は理由がない。尤も、右の如き原、被告間の愛情の違和が原因となり、これが更に大きな感情のもつれを醸成し、相互間の感情が全く冷え切つたものとなつていることは、本件において双方より離婚の請求の請求をしている事実からも明らかであり、更に原告が他の女と事実上の婚姻生活に入つている現在、原被告間の関係は最早覆水盆に返らずの喩通りの事情にあることは察するに難くないところであつて、婚姻を継続し難い事由があるというべきものの如く考えられるけれど、前述の通り、右違和の根本原因において原告がその責を負うべき本件にあつては原告からの離婚の請求はこれを容認するわけにはいかない。

翻つて、婚姻の遅れた事実を捉えて原告が被告と結婚したのは被告を家業に使役する目的から出たものである旨の被告(反訴原告)の主張は、婚姻届が遅れたからといつて直ちに被告主張のような目的に出たといい得るものではなく、またこれを認める得る証拠もないから、失当であることは明白であるけれども、前述の通り、原、被告が最早婚姻を継続し難い状態に在り、而も双方の感情の離反の根本において原告がその責を負うべきものである以上(原告が被告において原告の勧めにも応ぜず原告の許に戻らないため、己むなく他の女と事実上の婚姻生活を営んでいるというけれども、被告が原告の許を去つた理由が単に被告の我儘による等その責を負うべき事由による場合であれば兎も角、前述の通り、むしろそれが原告に責任のある本件にあつては、原告はこの事実上の再婚につき被告に対し責任を負うべきことは当然である)、被告(反訴原告)から離婚を求める反訴請求は理由のあるものとして、これを容認すべきであり更に、以上説示のような原告(反訴被告)の故意又は過失に基く積極又は消極的行為乃至態度のため、被告(反訴原告)は破鏡の苦悩を味うに至つたものといわざるを得ないから、原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対しその慰藉料の賠償義務を負担すべきであるというべきである。しかしながら、婚姻が夫々異つた性格を有し、異つた環境の下に成長した男女が夫婦として結ばれ、一生を共にするというものである以上、単なる自然な愛情の外に双方の理解とその上に立つ満足すべき生活の建設えの積極的な努力が必要であり、それは男女双方の負担すべき責務であることはいう迄もないところであるところ、原告山下哲二及び被告山下和子の各本人訊問の結果を綜合すれば、被告の性格には勝気なところがり、原告に対する態度にも必らずしも従順を欠く嫌いがないでもなく、積極的に円満な家庭を築いて行こうという熱意乃至努力が必らずしも十分でない憾みがあつたと認めざるを得ないのである。このような事情と原被告双方のその他の事情(原告山下哲二本人の訊問の結果(第一回)によれば、原告は荒物商を営み田、畑夫々約二反歩を所有しておて、再婚であつて、被告山下哲二本人訊問の結果(第二回)によれば、被告は初婚であつたことが夫々認められる。)を綜合すれば右慰藉料の額は金四万円が相当であると考えられる。従つて、原告(反訴被告)に対し慰藉料の支払を求める被告(反訴原告)の反訴請求は金四万円及びこれに対する本件反訴状の送達の翌日であることの記録上明白な昭和三十年八月十四日以降完済に至る迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当としてて認容すべきであるが、その余の部分は失当として棄却を免れない。なお原告(反訴被告)と被告(反訴原告)との間の未成年の子はなは前記認定の通り原、被告が別居した後父である原告に引取られ、爾来その手で養育されているので、同人に対する親権者は原告と定めるのが相当と認められる。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を適用し、仮執行の宣言については同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 真船孝允)

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